個別支援から組織支援へ
多層的支援システム(MTSS)導入ガイドブック
監修:子どもの発達支援専門員
臨床心理士 / 社会福祉士 / 保育士
なぜ「組織支援」が必要なのか
私たち支援者は、目の前の子ども一人ひとりに深く寄り添う「個別支援(ミクロ)」に全力を注いできました。しかし、個別の対応だけでは、対応が後手に回ったり、支援者の疲弊を招いたりすることがあります。
MTSS(Multi-Tiered System of Supports:多層的支援システム)は、視点を広げ、組織全体の環境(マクロ)を整えるアプローチです。「問題が起きてから対処する」のではなく、「問題が起きにくいポジティブな環境を作る」予防的な視点への転換をご提案します。
MTSSの3層構造
MTSSは、すべての子どもへの支援を土台に、ニーズに応じて支援の強度を変える「3層構造」で成り立っています。 下の図の各層をクリックして、詳細を確認してください。
個別支援 (5%)
小集団支援 (15%)
ユニバーサル支援 (80%)
各層をクリックして詳細を表示
実践の柱:PBSとDBDM
MTSSを機能させるためのエンジンとなるのが、肯定的な関わり(PBS)と、客観的なデータ活用(DBDM)です。
ポジティブ行動支援 (PBS)
「してはいけないこと」を叱るのではなく、「期待される行動」を具体的に教え、できたら認める文化を作ります。
PBS導入チェックリスト
チェックを入れて現状を確認しましょう
データに基づく意思決定 (DBDM)
「なんとなく気になる」という感覚を数値化し、支援が必要な子どもを早期に特定します。
※以下のグラフはMTSS導入による問題行動件数の減少シミュレーションです。ボタンで介入効果を確認できます。
自治体における実装モデル・リサーチ
MTSSの概念は、日本国内でも「多層指導モデル」や「チーム学校」として独自の展開を見せています。 特徴的な3つの自治体モデル(※一般的な事例に基づく類型化)を比較します。
学校全体包括的支援モデル
- ✅ ユニバーサルデザイン授業の全校展開
- ✅ 「授業規律」の統一化(姿勢、発言ルールなど)
- ✅ 定期的なハイパーQU等のアセスメント実施
概要と成果
多くの政令指定都市で見られるモデルです。教育委員会が主導し、全ての公立小中学校で「学習規律」や「授業スタイル」のスタンダードを策定。 第1層支援(授業改善)を徹底することで、落ち着かない児童の割合を減少させています。
導入のポイント
トップダウンでの導入が進みやすい反面、教職員の多忙感が課題。ICTを活用した校務支援システムで、不登校傾向や行動記録(DBDM)を効率化する動きが鍵となっています。
支援者の皆様へ
MTSSは単なる「システム」ではなく、「文化」の変革です。
データに基づく客観性と、子どもの心に寄り添う温かさは矛盾しません。
組織全体が安心できる安全基地となることで、
最も困難を抱える子どもたちへの支援も、より届きやすくなります。
まずは第1層、「挨拶」や「小さな承認」から始めてみませんか。
“Every Child Needs a Champion”