不安が強い子どもの理解と支援者向け研修資料

〜「困った行動」の背景にある愛着不安を見立て、多職種連携で安心感を育むアプロー

チ〜

子どもたちが示す様々な不適応行動やトラブルは、その多くが内面の「強い不安」や「愛着の不安定さ」

を解消しようとする防衛反応(サバイバル行動)です。本資料は、子どもの状態を「感情面」「行動面」

「思考面」「身体面」の4つの軸で多角的に捉え、支援者が表面的な行動に対して反射的に感情的な対応

(叱責や強制)をすることを防ぎ、背景にある苦しみに寄り添う「見立てのセンス」と、具体的な関わり

方、多職種連携の方法を学ぶための研修用テキストです。

1. 子どもの状態を捉える4つの側面(アセスメントの視点)

子どもの不安や愛着の問題は、目に見える行動だけでなく、心身の様々な側面に複合的なサインとして現れ

ます。以下の4つの領域から総合的にアセスメント(見立て)を行うことが重要です。

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側面 具体的な特徴・行動サイン 背景にある心理・見立ての視点
① 感情面 ・脳内の緊張が常に高く、イライラして自己抑制ができない。・かんしゃくを起こしやすい。・心から楽しんだり、喜んだりすることができない。・一度泣き出すと、自分からはなかなか泣き止むことができない。・強い孤独感や疎外感を常に抱えている。【感情の未分化とコントロールの喪失】自分の中に湧き上がる「不快感」や「苦しさ」の原因が自分で理解できず、感情を言葉にできません。コントロール不能な苦しみを抱えているため、他者への当たりや間違った発散行動(爆発)に繋がりやすくなります。
② 行動面 ・食べ物を隠してためる、暴食、過度の偏食。・自分を愛そうとしてくれる親や、権威のある人(支援者・教師)に対して攻撃的・挑発的である。・落ち着きがなく、多動である。・衝動や欲求不満に自制がきかない。・周囲を困らせる反社会行動が目立つ。【不安の解消行動・試し行動】すべての問題行動の根底には「不安の解消」があります。暴食・ため込みは「失う恐怖」への防衛です。また、大人への攻撃は「人に支配されることへの強い恐怖」や「どこまでやったら自分を見捨てるか」を確認する試し行動(アンビバレントな防衛)です。
③ 思考面 ・自分自身、人間関係、人生に対して極めて否定的な考えを持っている。・自分に自信が持てず、新しい挑戦を怖がる。・特定のパターンに固執し、柔軟な考え方ができない。・年齢相応の多角的な考え方ができない。・物事の因果関係がわからず、一般的な「当たり前」が通用しない。・忍耐力や集中力が著しく低い。【世界に対する不信と認知の硬直化】大人との関わりによる安心感(安全基地)が十分に得られなかったため、周囲を「危険な場所」と認知しています。不安が強すぎるあまり、失敗を恐れて思考がパターンに固執します。また、予測可能な環境にいなかったため、因果関係の予測が立ちにくい傾向があります。
④ 身体面 ・年齢相応の身体の発育が未熟で、小柄な子が多い。・他者から身体に触れられるのを激しく嫌がる。・痛みに対して不自然なほど忍耐強い(感覚鈍麻)。・身体の清潔を保てず、非衛生になりがち。・注意力が散漫で、自分の不注意による怪我をしやすい。【発達への影響と過覚醒状態】不適切な養育環境や愛着の欠如は、精神面だけでなく身体的発育や脳の構造にも直接的な影響を及ぼします(下記コラム参照)。痛みに強すぎる、触覚を嫌がるといった特徴は、神経系が常にサバイバルモード(過度な緊張・解離状態)にあることの現れです。

2 / 5【理論的背景】愛着(アタッチメント)の重要性と脳科学的知見

ジョン・ボウルビィの愛着研究: 特定の養育者がいない環境や、安定した愛着関係が結べない環境で長く育った

子どもたちは、精神面のみならず、身体的な発達(発育の遅れ、小柄な体格など)にも深刻な影響が見られるこ

とが古くから指摘されています。

友田明美教授(福井大学)らの脳科学研究: 近年の研究により、子ども期における不適切な養育(マルトリート

メント)は、脳の感情コントロールや意思決定を司る「前頭葉」の萎縮を招くなど、脳の構造そのものを変形さ

せてしまうことが明らかになっています。社会的動物である私たち人間にとって、大人との安心感のある関係性

は、食べ物と同じように生命の維持と健全な発達に不可欠な「栄養」そのものなのです。

2. 支援的視点を育む「見立てのセンス」

支援者が身につけるべき最も重要なセンスは、子どもの行動を表面的な「トラブル(困った行動)」として

捉えるのではなく、内面の苦しみの表出である「困っているサイン」として反転させて見る(リフレーミン

グする)視点です。

■ 「この子は不安を抱えているのではないか」という問いを持つ

子どもが攻撃的な態度をとったり、言うことを聞かなかったりしたとき、支援者が反射的に感情的になって

怒鳴ったり、力でコントロールしようとしたりすると、子どもの「大人は信じられない」「他者は自分を支

配しようとしてくる」という否定的な確信をさらに強めてしまいます。

一歩立ち止まり、「この行動の背景にある不安は何か?」「何を恐れているのか?」を落ち着いて考える癖

をつけておくことで、支援者自身の感情的な巻き込まれを防ぎ、プロフェッショナルとして適切な支援を展

開することができます。

■ 「困った行動」の背景にある本質(リフレーミングの例)

大人を挑発・攻撃する: 「どうせあなたも私を捨てるんでしょ?」という恐怖から、先制攻撃をして大人

の本気を試している。

過度の暴食や食べだめ: 「次いつ食べられるか分からない」「自分の存在が脅かされるかもしれない」

という根源的なサバイバル不安の代償行為。

じっとしていられない(多動): 内面の不安や恐怖が高まりすぎて、じっとしていると不安に押しつぶさ

れそうになるため、動き回ることで必死にバランスを保っている。

3. 支援的視点に基づく関わり方の原則

見立てを実際の関わりに繋げるための、現場で実践すべき3つの基本原則です。

3 / 5① 安心感の先行提供(安全基地の構築)

「言うことを聞いたら褒める」「良い子にしたら受け入れる」といった条件付きの受容ではなく、「あなた

がそこにいるだけで大切である」という無条件の安心感(安全基地)を提供します。一貫した態度、穏やか

で落ち着いた声のトーンでの対応を徹底します。また、一日のスケジュールや、これから何が起こるかを事

前に視覚的・具体的に伝えることで、見通しをもたせ、子ども自身の脳内の緊張(予測不可能性による不

安)を和らげます。

② 感情の代弁と言語化のサポート

「何だか分からないけれどイライラする」「涙が勝手に出る」という状態の子どもに対して、「そっか、悔

しかったんだね」「悲しい気持ちでいっぱいなんだね」と、支援者がその感情に名前をつけて代弁(ミラー

リング)します。これを積み重ねることで、子どもは自分の内面を客観的に捉えられるようになり、行動

(暴れる・かんしゃく・攻撃)ではなく、言葉で自分の気持ちを伝えるスキルを徐々に学習していきます。

③ 物理的・身体的距離感への配慮(環境調整)

体に触れられることを激しく嫌がる子ども(感覚過敏・身体拒否)に対しては、無理なスキンシップを避

け、パーソナルスペースを広めに保つなど、安心できる距離感を尊重します。一方で、感覚が鈍麻で怪我を

しやすい、あるいは注意散漫で事故を起こしやすい子どもに対しては、周囲の環境から危険なものをあらか

じめ排除するなどの「先回りの環境調整」を行い、物理的な安全を徹底的に担保します。

4. 支援を繋げる多職種・多機関連携(チームアプローチ)

不安が強い子どもや愛着に課題を抱える子どもの支援は、一人の支援者や、一つの機関だけで抱え込むと必

ず行き詰まります。支援者自身の燃え尽き(バーンアウト)を防ぎ、子どもを包括的に支えるためには、福

祉、医療、教育、心理が密接に繋がる「チームアプローチ」が不可欠です。

■ 多職種連携ネットワークの構造と役割分担

教育・保育機関(学校、幼稚園、保育所): 日常の集団生活における様子の観察、学習面での合理的配

慮、友人関係のサポート。園や学校を日常的な「安全基地」として機能させる。

福祉・行政機関(児童相談所、子ども家庭支援センター、放課後等デイサービス): 家庭環境のアセス

メント、保護者へのアプローチ(ペアレンティング支援、親の不安解消)、生活面での直接的・物理的支

援の調整。

医療・心理機関(児童精神科、小児科、公認心理師・カウンセラー): 医学的診断(発達障害や愛着障

害の評価)と治療、脳科学・心理学的視点に基づく専門的助言、トラウマケア等の心理療法の提供。

1.

■ 連携における2つの最重要ポイント

「共通の見立て」の確立: ある機関では「わがままな子」として厳しく叱られ、別の機関では「かわい

そうな子」として過度に甘やかされるといった、支援の方針のズレは子どもの不安を最も増幅させます。

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本資料で示した4つの側面をベースに、「この行動は不安の裏返しである」という共通の理解(見立て)

をすべての関係者が共有し、一貫した態度で接することが最優先されます。

支援者自身を支える「大人の安全基地」の構築: 子どもと向き合う支援者は、日々大きなエネルギーを

消費します。定期的な事例検討会やカンファレンスを通じて、支援者同士が「困りごと」や「しんどさ」

を吐き出し、支え合える環境が必要です。大人が安心して支援に臨める体制こそが、子どもの安心感へと

直結します。

5. おわりに

子どもたちの「人を困らせる行動」の裏側には、自分自身でもコントロールできない「計り知れない苦しみ

と不安」が隠れています。大人が反射的な感情で応じるのをやめ、「この子は今、どんな不安を抱えている

のだろう」と問いかける。その一つの気づきが、子どもにとって世界が安全な場所へと変わっていく第一歩

となります。人との安心感のある関係性は、子どもたちにとっての生命線です。ぜひ、地域のネットワーク

全体で、子どもを包み込む安心感の輪を広げていってください。

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