家族の中の「わたし」
動的家族画(KFD)を用いた対象関係論的アプローチ
支援者の皆様、日々子どもたちの心に寄り添う温かいご支援をありがとうございます。
本資料では、子どもが家族の中で結んでいる「対象関係(Object Relations)」を、動的家族画を通して紐解き、親子関係の再構築と支援のヒントを探求します。
🌱 KFD(動的家族画)とは何か
KFD(Kinetic Family Drawing)は、「家族みんなが何かをしているところを描いてください」という教示を用いる描画テストです。静止画ではなく「動き(Kinetic)」を導入することで、家族内のダイナミクス(相互作用)や、子どもが感じている家族の雰囲気が鮮明に浮き彫りになります。
対象関係論(Object Relations Theory)の視点
私たちは、子どもが描いた絵を「現実の家族の正確な写真」としては扱いません。精神分析学や対象関係論の視点からは、その絵は子どもの心の中にある「内的対象(Internal Object)」の世界が外在化(Externalization)されたものとして捉えます。
- 子どもは家族をどう体験しているか。
- 誰を「安全基地(Secure Base)」と感じ、誰に圧倒されているか。
- 家族の中で「わたし」はどこに位置づけられているか。
絵の巧拙を見るのではなく、そこに表現された「心の真実」に寄り添うことが、私たち支援者の第一歩となります。
🔍 サインの読み解き方(分析指標)
KFDには様々な解釈の指標があります。しかし、これらは「正解」を導き出すためのマニュアルではありません。子どもの心の背景を推測するための、複数のレンズ(複眼的な視点)として活用してください。
👨👧👦 事例から学ぶ洞察:A君(8歳)のKFD
架空の事例を通じて、描かれた世界から内的ダイナミクスを読み解いてみましょう。以下のチャートは、A君が描いたKFDにおける「心理的距離感(配置)」と「力関係(描かれたサイズ)」を視覚的に表現したマップです。
※ バブルの大きさは描画サイズ(力関係)、位置は画用紙上の配置(心理的距離)を表します。
A君の内的世界の分析
A君にとって最も関心が強く、同時に圧倒的な力を持ち、心理的に干渉(呑み込み)してくる対象として内在化されています。
自己評価が低下しており、母の強い影響下から逃れられず、自律性を発揮しにくい状態にあります。
心理的な距離が遠く、現在のA君にとって「安全基地」としての機能や、母子密着に介入する第三の機能(父性)を果たせていません。
妹との間に線を引くことで、妹への葛藤(嫉妬など)から自己を防衛し、心理的な隔離を図っています。
🛡 内的対象と防衛機制の表出
子どもは、抱えきれない不安や葛藤を処理するために、無意識に防衛機制(Defense Mechanisms)を用います。KFDには、これらの機制が視覚的なサインとして表れます。描画を通じて、内的対象がどのように外在化されるかを見ていきましょう。
💚 コンテインメントと支援の方向性
KFDから得られた洞察を、私たちはどのように支援に活かせばよいでしょうか。最も重要なのは、分析結果を子どもや親に突きつけることではなく、その世界を丸ごと受け止める(コンテインする)ことです。
1. コンテインメント
子どもが描いた(外在化した)不安、恐怖、怒りなどのネガティブな感情を、支援者が否定せず、圧倒されずに抱え込み(Containment)、消化可能な形にして見守り続ける態度です。
2. 解釈と対話
「お父さんは遠くにいるね」と指摘するのではなく、「この子はどんな気持ちでこれを見ているのかな?」と、一緒に絵を眺めながら、子ども自身の言葉が紡がれるのを待ちます。
3. 現実関係への介入
絵から読み取った仮説(例:母子密着と父の不在)を基に、親面接の中で「お父様との時間を作る工夫」を提案するなど、環境調整や家族療法的なアプローチを組み立てます。
支援者・親へのメッセージ
子どもは、安心できる場所(安全基地)を探しています。絵の中にバリアを描いたり、自分を小さく描いたりするのは、過酷な心理的環境を生き抜くための、その子なりの健気な適応(サイン)なのです。私たちは専門的なレンズを持ちつつも、常に温かい眼差しで子どもの心に寄り添い、親子が新たな対象関係を結び直せるよう、伴走者として支援を続けていきましょう。
