トラウマインフォームドケアについての支援者向け資料

brain in a nut cracker

TICと神経系調整:専門職のための実践ガイド

トラウマインフォームドケア(TIC)の深化と神経系調整
〜見えない傷つきへの応答と、神経学的アプローチの応用〜

「何が悪いのか」から「何があったのか」へ。子どもの行動を生存戦略として理解し、自律神経系から安全を再構築するための専門職向け総合リソース。

#ポリヴェーガル理論 #感情調節の窓 #共同調節

1. 逆境体験(ACEs)と脳の変容

トラウマは脳のアーキテクチャそのものを書き換えます。特に成長期の脳は、恐怖に敏感な「生存モード」へと優先的に配線されます。

扁桃体(過活動)

脅威探知機が常にオン。些細な刺激にパニックや怒りで反応します。

海馬(萎縮)

記憶の整理が困難に。「いつ、どこで」の文脈が失われ、フラッシュバックが起きます。

前頭前野(活性低下)

感情のブレーキが効かない状態。論理的な説得が届きにくい理由です。

DMNの断絶

「自分が自分である」感覚(自己同一性)や内面感覚の処理が不安定になります。

2. 感情調節の窓 (Window of Tolerance)

過覚醒 (Hyper-arousal)

闘争・逃走反応

攻撃、パニック、多弁、衝動性、落ち着きがない

至適覚醒領域 (Optimal Arousal)

学習・つながりの窓

穏やか、好奇心、共感、思考と感情の統合

低覚醒 (Hypo-arousal)

シャットダウン・解離

無反応、虚脱、感覚麻痺、うつ状態、死んだふり

トラウマ児の「窓」の特徴

  • 窓が極めて狭い: わずかな環境変化や刺激で窓の外へ跳ね飛ばされます。
  • ニューロセプションの過敏: 意識下で常に「脅威」をスキャンしており、中立な表情を「敵意」と誤認します。
「窓の外にいるとき、子どもは反抗しているのではなく、神経系が必死に生き延びようとしています。」

ケーススタディ:神経学的洞察

事例A:攻撃的な爆発(過覚醒)

学童保育で、友達に軽く肩を叩かれた瞬間に激昂し、机をひっくり返したA君。

【神経学的理解】

背後からの接触が「生存を脅かす攻撃」として扁桃体で処理された。前頭前野(ブレーキ)が機能せず、交感神経が一気に過覚醒へ。

事例B:突然のフリーズ(低覚醒)

授業中、先生が大きな声で全体を注意した際、突然視線が虚空を彷徨い、返事をしなくなったBさん。

【神経学的理解】

「大きな声」が過去の虐待記憶と共鳴。逃げ場がないと判断した神経系が、背側迷走神経を起動させシャットダウン(解離)した。

3. ボトムアップの調整介入

過覚醒(パニック・怒り)

重作業 (Heavy Work)

壁押し、重い荷物運び、ストレッチ。筋肉への圧力が神経系のブレーキになります。

7-11呼吸法

7秒で吸い、11秒で吐く。長い呼気が副交感神経を刺激し、心拍を下げます。

バタフライ・ハグ

胸の前で手を交差し交互にタップ。両側性刺激が脳を鎮めます。

低覚醒(シャットダウン・解離)

感覚の再起動

氷を握る、強い香りを嗅ぐ、酸っぱい飴を舐める。刺激が「今、ここ」へ引き戻します。

漸進的運動

足指を動かすことから始め、徐々に全身を揺らす(シェイキング)ことで凍りつきを解きます。

5-4-3-2-1法

視覚・聴覚など五感で周囲を確認。周囲をスキャンする動作は安全感を生みます。

支援者自身の神経系の安定(並行プロセス)

子どもの神経系を調節する最強のツールは、支援者自身の「安定した神経系」です。子どもの混乱は支援者の窓を閉じさせようとしますが、ここで踏みとどまることが「共同調節」の始まりです。

マイクロ調整

支援の合間に深く吐く、足裏の感覚を感じる。数秒のセルフ調整が代理受傷を防ぎます。

プロソディ(声)

抑揚のある温かな声は、子どもの中耳の筋肉を調整し「安全」のサインとして届きます。

組織的レジリエンス

スーパービジョンは技術指導だけでなく、自律神経をリセットする場であるべきです。

TICの実践は、単なるスキルの提供ではなく、自律神経系レベルでの「安全の証人」となることです。

Professional Resource for Trauma-Informed Care